あまりにも惜しすぎる、悲しすぎる
23歳の若さで逝った天才俳優
10月31日、弟と恋人のサマンサ・マティスの3人でクラブを出た後、発作を起こし急死したR・フェニックス。司法解剖の結果、体内からコカインが検出され、死因はドラッグのオーバードース(過剰摂取)ではないかと言われている。ちなみに彼は、常用者ではなく、この日初めて服用した“ショック死”との説も…。東京国際映画祭で上映された『サイレントタン』、サマンサと共演した『ザ・シング・コールド・ラブ』('94春公開)、T・クルーズ共演の『夜明けのヴァンパイア』(公開未定)といままさに“旬”だった。
『殺したいほどアイ・ラブ・ユー』、『マイ・プライベート・アイダホ』で共演したキアヌ・リーヴスはこうコメントした。
「仕事仲間としてより、友人として残念でならない。これからという時にこんな結果になったのは彼が天才だからだったと思う。ヒーローは早く死んでしまうという伝説をみごと地でやってのけたと言いたい……」。
1993年、私が情報誌編集部で映画のページを担当していたとき、大好きな俳優、リヴァー・フェニックスが亡くなった。本日はその命日だ。上はそのとき、契約していた海外在住ライターさんの情報を元に、私が書き起こし掲載した記事。『サイレントタン』はその後『アメリカンレガシー』に、『ザ・シング・コールド・ラブ』は『愛と呼ばれるもの』、『夜明けのヴァンパイア』は『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』という邦題に。出演予定だった『インタビュー~』はリヴァーの死後、クリスチャン・スレーターに替わって製作されたのは有名な話だ。
1993年10月31日。あの日私は、校了だった。校了というのは、写真や原稿などすべての作業やチェックを済ませる、いわば一番最後の締め切り。ここで間違いを見逃すとそのまま本になってしまうという怖い日だ。
朝出社すると、すでに出社していた映画班の同僚から、「和田さん、リヴァーが死んじゃったから、これ直したほうがいいんじゃない」といきなり校了紙を指し言われた。「え?」と私は頭が真っ白になる。リヴァーが死んじゃった。いけない今日は校了だ。私が今号で担当したページの中に、旬の若手俳優を引用した記事でリヴァーの名前が出てくる箇所がある。まずい、そこ直さなきゃ。でも旬の若手俳優って、しかも格好いい人じゃなきゃ……誰がいいだろう、いやまてよ、リヴァーが死んじゃったんだよね?
ただでさえ追い込まれる校了日に大好きな俳優が亡くなったという、これ以上にないストレスの中必死に考え、「リヴァーほど格好良くはないけど」と泣く泣くジョニー・デップに直し校了した。今でこそ「ジョニデ」なんてきゃーきゃー言われているけれども、当時はまだまだその魅力は開花しきっておらず、とはいえ、他に若手でそれなりに活躍していて華があるのはデップしかいなかったので妥協した。いい俳優さんだとは思っていたけれども、ここまでメジャーになるとは。今の彼の活躍ぶりは本当にこの頃、想像がつかなかった。というか本当に、リヴァーが一番だったのだ。
今ではインターネットにツイッターなどなんでも海外の情報がタイムリーに入ってくるけれども、この頃はそうではなくて、実は『旅立ちの時』さながらの生い立ちだったとか、大変なヴィーガン(かなりストイックなベジタリアン)で反麻薬運動をしていた彼がオーバードースという死因、そしてかなり昔からドラッグをやっていた云々、死後になって知る事実もあったりして、ドラッグにかんしても上の記事のように当初は、「この日初めて服用した“ショック死”との説も」程度の表現にとどまっている。今や、人気女優がドラッグで捕まり、出廷したときの爪に小さく書かれた『f●ck U』の文字までわかってしまう時代。そう思うとこの頃は、ただでさえミステリアスなリヴァーが若くして亡くなり、より伝説になった感があって、今こうしてあれこれ調べ直していると、知りたくなかったな、ということもけっこうあったりする。
とはいえ。彼が天才俳優だったのは間違いない。もしまだ、彼の作品を観たことがない、という人がいれば、ぜひこれを機会に観てほしいと切に思う。
今日は、追悼の意味も込めて、うちにあるいくつかの彼の作品をご紹介。
『旅立ちの時』
ラディカルな反戦運動に参加して爆破事件を起こして以来FBIのおたずね者となった両親を持つ17歳のダニー(リヴァー)。15年間、髪の色を変え名前を変え、アメリカ中を転々とする中、自分の音楽の才能を知り、恋を知り苦悩する。大人へと成長する姿を描いた青春物語。
本作でリヴァーはアカデミー助演男優賞ノミネート。彼の出世作、『スタンド・バイ・ミー』からわずか2年でこの成長ぶり。とにかく切なくて、涙なくしては観られない。共演のマーサとは一時期恋人関係だった。ちなみにこれはVHS。
『殺したいほどアイ・ラブ・ユー』
ピザ屋を経営する浮気夫と、彼を殺そうとする妻を描いた、実話をもとにしたブラックコメディ。リヴァーは、妻ロザリーに想いを寄せる店員、ディーボ役。
主演の二人の濃さもさることながら、実はリヴァーほか、キアヌ・リーヴス、ウィリアム・ハートなど、見逃せない脇役がずらり。とても笑える充実した97分。実話というのが本当に凄い。DVD。
『アメリカンレガシー』
ジャケットにもあるように、リヴァー最後の主演作。1993年東京国際映画祭正式出品作。ネイティブアメリカンのハーフの妻が死亡。夫のタルボット(リヴァー)は悲しみのあまり遺体を守り一睡もしない。そこへ妻の亡霊が現れ、獣に遺体を食べさせ魂を解放して欲しいと頼む……。
ちなみにこちら、賛否両論。私も実は「うーん」と唸ってしまった記憶が。でもリヴァーの死の直前の作品ということで有名なので、紹介せずにはいられません。お仕事時代にいただいたサンプル品のため、ジャケットに印字があります。もちろんVHS。
『マイ・プライベート・アイダホ』
そして最後はやはりこちら。
強い緊張やストレスで発作的に深い眠りに落ちる、ナルコレプシーという病を持つ男娼、マイク(リヴァー)。彼は、同じストリート・キッズで男娼のスコットとともに、行方不明の母を捜しに、ポートランド、アイダホ、ローマと旅をする。
リヴァーとくればこの作品を挙げる人も多いはず。というかこのジャケ写、主演のリヴァーがキアヌの後ろというのがどうも個人的には解せない。無骨なリヴァーが切なすぎて格好良すぎる。DVD。
ちなみに一番上にある『SPIN』という雑誌は、私がニューヨークに旅行に行ったときに買ったもの。ちょうどリヴァーの死の直後だったので思い出にと今まで大事にとっておいた。一生捨てられない一冊。
(c)tw1994