パラドゥのトリートメントリムーバーを、切らせてしまった日のことを私は忘れない。
真夏だったあの夕方近く。お出かけ寸前に剥げたネイルを発見、ひとまず一度塗りでもいいから塗り直そう、と除光液を取り出すと、やけに軽い、ちゃぷちゃぷという音。コットンに湿らせてみるとそれは、どう考えても片手分を落とすくらいの量しかない。
「いや大丈夫。私は美容ライター、なんとかしてみせる」という慢心むなしく、片手どころか、指先から色が消えたのはたったの2爪半。時計を見る。近くのセブン-イレブンまで徒歩10分。逆算すれば選択肢は自転車しかない。
みんみんと騒ぐ蝉の声を聞きながら、夕暮れ迫る道を私は、数十年ぶりに自転車を立ち漕ぎした。腿がつる、汗が噴き出る。緩い坂が長すぎる。
息も絶え絶え、ききっと自転車を店頭に止めるが、すっぴん、どろ汗、ネイルが半端に取れたオカルトな私を店員さんは冷たく一瞥。「420円です」と言われるがまま、私は無言で小銭を渡し帰路についた。
白くならない、なのにすぐ落ちる。
私はどうしても、このリムーバーじゃなきゃ駄目なんである。
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